2013年6月12日水曜日
西村賢太 『小銭をかぞえる』 (2冊目)
これはすごい本だ。
いまや有名人になり、メディアに露出する様になった西村賢太。
芥川賞の受賞時のインタビューで「そろそろ風俗にでも行こうと思ってた」発言で破天荒作家として世間を驚かせたが、本の内容もなかなか破天荒である。
知らない人の為に記載しとくけど、彼の作品は全て私小説である。
私小説とは自分を主役として私生活をそのまま書いたものである。
私小説で有名なのは太宰治の『人間失格』なんかがあるけど、
しかしだ。西村賢太に比べたら太宰なんて甘っちょろいと認識せざるおえない。
はっきり言おう。
西村賢太は最低最悪の男である。
中卒のうえ、定職にもつかず、親父は性犯罪で逮捕され、友人知人から金を無心し、その金を風俗に使い、女に暴力をふるい、そのくせ己の保身の為に土下座で泣きながら謝り通し、女の親から金を借り、惚れた風俗嬢に金をだまされ、成功者を、世の中を憎むアンチヒーローなのだ。
これがフィクションでなく私小説で描かれている。
平成の時代にもこんな破天荒な人物がいるなんて興味がそそられないわけがない。
そんな最低な男の話を一体誰が読みたいのか?
これが怖いもの見たさで共感を得ているから不思議だ。
彼の素晴らしい所は、そんな最低な自分を小説に書くことで一歩距離を置いて客観的に
、かつユーモラスに描いていることだ。
そして会話が実に秀逸。
昔の小説家である藤澤清造を師と仰ぎ、彼の文体に影響をもろに受けたせいで
昭和初期の文体調で、現代の話が書かれている為、ここに不思議なケミカルが生まれている。
自分の事を「卑猥犯の倅」、「色餓鬼」と表現したり、なかなか他の小説にはみない表現である。
西村の本は、基本、どの本も書かれてる内容は一緒である。
金がないだの、彼女と喧嘩しただの不毛な生活(貧乏たらしく、みじめで悲惨)が淡々と描かれている。
だからぶれない安定感がある。
西村賢太の本は全て読破したが、
中でもこの本が一番のお気に入りだ。
短編が2編収録されているのだが、
彼女(一応、付き合ってた彼女はいた)に子供が欲しいと言われ、こんなセリフを吐き捨てる。
「まともに話が通じる手合いもないから殆ど白痴や狂人と選ぶところがないよ。
ところかまわず糞小便を垂れるし、胃液を吐くし、どうにも小汚くて始末におえねぇ」
よっぽどのひねくれ者なのか子供をこんな風に表現する人はなかなかいない。
そんなことを言われたもんだから今度は彼女は犬のぬいぐるみを購入し、
溺愛していく。
その溺愛の仕方もかなり危ないが、喧嘩した時にそのぬいぐるみのクビを引きちぎりテレビの上に置いとくシーンは一種のホラー的でこの本の最大の山場なのでは・・・・
もう1篇も金の為に昔の知人を訪ねていく話は、一度読みだしたら止まらない西村ワールド炸裂なのだ。
こいつ、最低だな。とかいいつつも気づいたらどっぷり西村ワールドにはまってる自分がいたりする。
それはどこかしら西村賢太に近い感覚を自分も持っているせいなのか・・・
9点(10点満点)
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