2014年4月21日月曜日

トランス 2013年/イギリス映画/101分 (33本目)


ダニーボイル監督の映画が好きです。

独特のテンポと音楽のかけ方のセンスは内容はどうであれゾクゾクします。


ただし、映画の編集がよくてもシナリオとの相性が合わない場合、
それは酷い時には駄作とまで言われてしまうから怖いもので、

うまくいい形で爆発したのが『トレインスポッティング』や『スラムドッグミリオネア』だと思う。



前作『127時間』でさらに監督として評価を得た、新作である『トランス』を観ました。



感想は『トレインスポッティング』を匂わせながら内容を複雑にいじくり倒しすぎたという印象です。


一枚の絵を巡っての強奪による催眠療法の話ですが、
これが現実なのか妄想なのか曖昧にしながら謎を明かしていくもんだから
ネタ明かしされた後でも正直スッキリしません。


しかも主人公のキャラがラストには一気に変わります。


今までのは一体なんだったんだと思うくらいのスピードで展開が2転、3転するので
とてもついていけません。

面白くないというわけではないです。

もう一回観てもいいかなと思いました。


ちょっと脚本いじくりすぎですね。

もっとシンプルにすればよかったのにと思ってしまいました。

本人はデビュー作をモチーフに作ったみたいです。



編集は相変わらずのダニーボイル節炸裂でめちゃくちゃかっこいいです。


主人公もなんだかユアンマクレガーに似ていて『トレスポ』をひきづってる感がありますね。


ネタ明かしが「女の下の毛」というのGはちょっと笑ってしまいました。



ヴァンサン・カッセルは一際この映画でいい演技をしていましたね。

『ブラック・スワン』に出てましたけど、
顔が独特というか、あの映画でも印象に残ってました。


ラストの終わり方は好きです。


主人公は結局生きてのか死んでるのか曖昧なまま終わりましたけど
それ以上にモヤモヤが大きくて気になりません。


まぁ、観た後のモヤモヤ感がまさに「トランス」と言われればそれまでですけど。


6点(10点満点)

貫井徳郎 『乱反射』 (8冊目)


久々に貫井徳郎の小説を読みました。

ストーリーは子供が殺される話です。
ただそれだけです。


じゃあ犯人は誰か?
こう言えばどこにでもあるようなミステリー小説ととらえられるかもしれませんが、
この小説の面白いところは簡単に言えば犯人は市民なんです。




車庫入れが苦手な女性、老人の愛犬家、娘を見返したい勘違いおばさん、
アルバイトの医者、姑と、うまくいかない嫁、家を立ち退かない老人、樹木検査の委託業者など

結構な登場人物が出てきます。


この分厚い本の内容を1行で説明すると

犬の糞を放置したことで人が死ぬ、そんな話です。


まぁ、当然直接犬の糞で人は死ぬわけないですから
そこには人間の普段何気ない小さな悪意の連鎖によって事故が起きるんですが。


被害者からしたらこれは殺人ととるわけです。

ところが法的に罰則を与えることができないのがこの話のみそです。



全体的に多少、作者の強引なご都合主義ですがよくできた本だと思います。


ラストまで精巧に計算してから書かないと書けない内容ですよ。


最後まで飽きさせずに読ませる文章力も貫井徳郎ですね。


7点(10点満点)


2014年4月14日月曜日

荻原浩 『砂の王国 上・下巻』 (7冊目)


ものすごい分厚い上下巻です。


所持金3円のホームレスになった男が新興宗教を立ち上げる話。


「砂の王国」ってタイトルなんで、ラストはなんとなく予想できますよね。


上巻はホームレス描写が見事で、作者は実際にホームレスを経験したのかというほどリアルでした。


ただ、宗教を始めるきっかけがあまりに唐突だったように思えます。

というか「きっかけ」ってなかった様に思います。


今まで宗教の話なんか一切でてなかったのにいきなり主人公は宗教を立ち上げ、
儲けるという話になっています。


後に、過去に母親が宗教にはまり
痛い目をめていたことがきっかけと後付の様にありました。


これって後で足すちょっと卑怯なやりかたですよね。


いままで宗教を立ち上げる話は
貫井徳郎 の「夜想」とか、新堂冬樹の「カリスマ」だとか
いくつか読んできましたが一番リアリティがありました。


人をだます手口が非常に凝っています。
作者は心理学の本を結構読んだんじゃないですかね。


この本の面白いところは宗教団体を立ち上げる主人公自身が宗教を軽蔑しているということ。


あくまで「宗教」という名を借りた新たなビジネスを始めた男の話ですかね。

金儲けの為に「宗教」を使う。


けど、その自分の作った宗教団体がどんどん自分の思惑から外れていく。


ラストも予想通りの展開でした。


宗教もののオチって難しいですよね。


非常に文量が多く、途中ダレたので6点ってとこですかね。


半分以上はあげたいけど7点はやりすぎです。


6点(10点満点)